ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

妻の お・も・ら・し

 夜中に頭の先でゴソゴソ、気配。

 

 「どうした?」と顔を上げると「トイレまで持たなかった‥・」と、つぶやく妻。

 

 何枚か重ね着して寝る下着をぬらしてしまったのか、押し入れから着替えをあれこれ

引っ張り出しているようだ。

 

「早くせんと、風邪ひくぞ」妻をせかせて、私は寝返りした。

 

 翌日の夜も、トイレへ駆け込む前に漏らしてしまった、と妻は苦笑する。

 一日置いて、また――。

 

 (とうとう、おもらしが始まったか――)私の心を、不安がよぎる。。

 

 「母さん、テレビCMに出てくる「いいもの見つけたね」あれ買わないかんようやな

あ」――俳優の勝野 洋・キャシー中島夫妻が腕を組んで歩きながら会話する「紙おむ

つ」のCM、あれである。

 「‥・‥・」

 

 (妻を連れだしてドラッグストアへ出かけてみるか――いやだなあ‥・。)

 

 折よく娘が顔を見せた。

 

 母さん、こうこうだ、と話したら「すぐ、買いに行こうよ」

 お安い御用とばかり母親を車に押し込むように乗せると、近くのドラッグへ出かけ

て行った。

 

 30分ほどして二人は帰ってきた。

 

「いいのがあったよ」見れば、アテントの「下着爽快+超薄型紙パンツ」L~LL と

ある。

 

 翌朝、娘がいつものように出勤途上の車から「ゆうべ母さん、どうだった」と電話で

尋ねてきた。

 

 「大丈夫やった。ぐっすり、眠れた。ありがとう〇〇ちゃん‥・」妻が嬉しそうに電

話口に答える。

 

 翌日も、その次の夜も、妻のおもらしはなかった。

 

 「母さん、よかったなあ」励ます娘。私も娘と声を合わせ、胸の奥でも正直ほっとす

る。

 

 紙パンツをはいて寝るだけで、安心感が無意識のうちに五体を包むのであろうか。

 

 

 あれから半月ほどたったけど、妻のベッドの脇をのぞいて見ると、紙パンツはまだ

2枚使っただけのようである。