晩秋も間近い、肌寒さを覚える朝、マロンは冷たくなっていた。
夕べ寝るときの、腹ばい姿勢のまま‥‥。
別れは近いだろう、と胸の内では思っていたけど、やはり悲しく、寂しい。
愛犬「マロン」は、オスのチワワ。あと2か月もすれば満18歳になる「長寿だよな
あ」と娘、妻ともども喜んでいたのに――。
昨年暮れ、マロンは容態が急変、かかりつけの獣医さんの動物病院へ連れ込むと「心
臓が弱っている。あと幾日も持ちそうもない」と診断された。
それでも、処方された粉薬を水で溶いて朝夕2回、シリンジ(注射筒)で、毎日私が
飲ませ続けた。
1月、2月、3月‥‥マロの体調は持ち直したかのように思われた。散歩にも出かけら
れるほど。でも、50メートルも歩かぬうちに、くるっと後ろ向きに。すたすた家の方へ
帰って行く。
白内障が進み、耳も聞こえなくなってきたのか、後ろから名を呼んでも反応しなくな
った。部屋のあちらこちらを歩き回らなくなった。
柔らかいペットフードも、大好きなおやつは小さくちぎって与えても、口を開けなく
なった。獣医さんに薦められて買った缶詰のペースト状の栄養食を、私の手の指に乗せ
て与えるとよく食べてくれた。
水器まで、自力で水を飲みに行く力もなくなった。マロンの舌と口元の気配を察し
て、私がシリンジで水を飲ませることにした。
マロンの衰弱は日に日に進み、終日ほとんど同じ姿勢のまま眠り続けるほど。骨と皮
ばかりにやせ細った体を抱き上げるのも、辛かった。
「マロン、頑張れよ!」マロンの耳に何度もささやいて励まし、抱きしめた。
そして9月26日朝「マロンは、最期の最期まで頑張ったよ」ラインで娘に伝えると
「父さん、本当によく面倒見てくれてありがとう。マロンは天寿を全うし、きっと満足
して天国へ行ったに違いないわ‥‥」と労ってくれた。
二三日たって「父さん、マロンいないと寂しいなあ。」と妻。「そうだなあ。長年
、いつも一緒に居たものの姿がなくなって、寂しいものだな」思いは私も同じ。
「マロンは、もう帰ってこないの?」認知症の妻はつぶやいた――。