ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

母と娘のボランティア

妻と長女が、病院でボランティア活動してきた。
管理栄養士で大学講師の長女が、講演で知り合った医師から「看護師らが、メークアップ講習で女性入院患者の気分転換を図ってみてはどうかと提案してきた。適当な美容師を知らないか」と頼まれた。長女は「母が化粧品屋をやってます」と答えて話が決まったのだという。
当日、妻は化粧用具を詰め込んだ重いバッグを引きずり、ひとり私鉄を3社乗り換え、特急電車で2時間余、さらに駅まで出迎えの長女の車で1時間走って会場の病院へ。
病院の午後のひと時、患者と看護師に入りかわり立ちかわり囲まれてメークのデモンストレーション。毎日沈みがちな女性患者たち、どの顔もおしゃれに興味を示した。
青白かった顔に温か味のあるファンデーションが乗り、頬にうっすらオレンジ系のチークカラー、口紅を描いて仕上がり。たちまち満面に笑みが戻り、だれもおしゃべりになって「10歳若返ったみたい」と大はしゃぎ。鏡の中の自分を眺めては、なかなか鏡を手放さない。中には「ふき取り化粧水は、なぜ必要なの」すっかり打ち解けて熱心に尋ねてくる。母とアシスタントを務める娘の連係プレーよろしく、患者モデルを次々美人?に仕立て上げて行った。病院長も目を細めて見守っていたようだ。
「患者さん、どのお顔も生気を取り戻したみたい。こんなに明るく元気な雰囲気は久しぶり。私たちも美容の勉強にもなったし……」と看護師さんらは、自分らの提案した企画が大当たりで「よかった、よかった」を連発されたという。
「近いうち、また来てくださいね」みんなから握手攻めのうちにお別れした。
母と娘が一緒にボランティア。忙しい二人にとって、後にも先にもこれ一度きりの経験になるかも知れない。「お疲れさん。でも、みんなに喜んでもらえてよかったね。いいことした」と私は心から二人をねぎらった。車での帰途、母子は久しぶり水入らずで食事をともに楽しんできた。それもよかった。
人のために尽くすことはいいことだ。本当によい経験だった。妻と娘を心底ほめてあげたい。