ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

神さまの正体を見たか。

 Nさんがお神札授与所からのぞき込んで言った。「ネギ(禰宜)さん、神さんの正体見たか」。私がいつものように「いえ、未だに」と答えると「まだまだ修業が足らんな。わしゃ、きょうもお会いしたぞ」満足そうにニヤリ。Nおじいちゃん、時折私を試して悦に入ってる。「鈴を鳴らして両手を合わすと、神さんがすうっとわしの前に現れるんだ」
 信心深いのは結構だが、ここまでくるとちょっと迷惑です。じっと辛抱して、適当に相づち打ってお説を聞いてあげると、やがて得心して帰って行きます。Nさんはあちらこちらのお宮やお寺を信仰されているようです。それぞれの縁日には、愛用の単車にお供え物を積んで飛んで行きます。
 Nさんに、修業が足らぬと笑われて十余年、私は未だにご祭神のお姿を拝んだことがありません。お声を聞いたこともありません。恐らくこれからも神さまのお姿にお目にかかることはないでしょう。