ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)

夜明けのムカデ騒動

 妻の悲鳴で飛び起きました。「痛っ、痛いッ。ムカデに噛まれた」と布団の上で足を押さえ、顔をゆがめています。眠りまなこで周りをまさぐり、何でもいい、棒状の物をつかむやムカデに一撃。昏倒したのを見定めて、毒を吸い出そうと試みましたが、傷口は足の指と指との間でうまくしぼり出せない。「救急車頼もうか」とあわてましたが「大丈夫」の返事を耳に、階下へ降りてムヒを見つけ傷口に塗りたくり、氷でも冷やす。次に廊下から外へ出て植木鉢のアロエを引きちぎり傷口を包みました。とりあえず、やれやれ。時計を見ると午前6時前でした。
 私ども夫婦ともに生まれも育ちも片田舎。ムカデやヘビはおもちゃ代わり、同居同然で育ちました。でも、歳とともに特にムカデは苦手になりました。二十歳代後半、新聞社の宿直室で一人仮眠中などムカデが畳を這う気配で目が覚めました。またそのころ、親子3人借家住まいの真夜中、ジャリジャリ気味悪いムカデの足音で目覚め、2歳の娘を抱き上げて毒牙から救った、という一幕も思い出です。今はもうあのころの冴えた神経や機敏さは残ってません。だから寝込みを襲うムカデは苦手、にっくき敵です。
 深い森に包まれた神社、身の回りはスギ花粉だの<這う虫ども>がいっぱいです。せんだって宮参りの祈祷で、装束を着け御殿へ上がろうとしたら「宮司さん、背中にムカデが……」と祈願主に注意されてドキッ。(このムカデめ、何が神の使いだ、何が縁起物だよ)と悪態胸のうち。敵とばかり払い落とす。ある朝は祝詞を奏上しよう拝殿の床にひざまずいたら、目の前に小さなヘビが舌をペロリ。助けてッ、冷や汗たらり。いやあ参りました。夏の神社は内外とも油断ができません。