ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

正直な彼女に幸せを

財布にお金はいってなかった…

先週の日曜だったか、ちょっとおしゃれな二十歳代中ごろと思しき女性がおふだ授与所に立った。
いろんなお守りの中から縁結びの袋を三つ手にとって「迷っちゃう。神主さん選んで」。
私は「この窓口でよく出るのはこの柄、この色です」とだけ言って「お選びになるのはあなたです」と決断は女性に任せた。彼女は迷った末一つ選んで、バッグから財布を出した。
「あれ、お金はいってない…」べそかいて「ごめんなさい。この次にします」といかにも申しわけなさそうな顔。

「いいですよ、お持ちください」

「このお守りは、あなたに縁があったのです。きっと。初穂料(代金)は次にお参りの折で結構です」とっさに判断して私は笑みを返した。相手が若くてきれいな女性だったからではない。笑顔が何ともすがすがしかったからです。もちろん初対面だったけど、私は名前も住所も聞かなかった。彼女は恐縮しながらお守りをバッグにしまって立ち去った。実は私それっきり忘れていた。
きょう午後、参道の満開のサクラの下を彼女がやってきた(彼女の姿を見ていたわけではないが、多分そうだろう)。神前に響くかしわ手の音を聞いて間もなく、軽やかな足音が窓口に近づいてきた。
「先日はありがとうございました」私はパソコンのキーをたたく手をとめ、その明るい声に眼をやると彼女だった。ラフないでたちだが相変わらずおしゃれだ。
「ここは満開ですね。私の職場では来週お花見ですが、花はそのころまで持つでしょうかね」と帽子の下からのぞいた顔が白かった。
私が「どの辺りへ花見するのか知らないけど、どうせ皆さん花より団子でしょうから…」と言葉を返すと「そうですよね。花より団子ですね、みんな」こぼれるような笑顔をきょうも残し、満開の花が覆いかぶさる鳥居を(昨日掲載の写真)くぐって帰って行かれました。
本当に気持ちのいいひと時でした。