高校の同窓会機関紙が届いた。
1年1回の発行で、同窓会運営賛助金一口1,000円を納めた人を優先して配布されて
いるようである。
私も妻も、前々から毎年賛助金を振り込んでいる。私と妻は同級生であり、同窓生で
ある。
紙面には、賛助金を納めた人の氏名と卒業年度が掲載されており、ざあっと視線を送
りながら「A先生ご健在なんだ。B先輩の名もあるぞ。同じ科のC君はことしも名前が
載っている。家庭科のD子さんは旧姓のままだ。養子さんもらったのか独身のままなの
だろうか。」
それぞれの顔や姿が、昨日のようによみがえる。去年まで毎年名前の出ていたH君や
Fさんの名前が今年は出ていない。どうしたのだろう――。そんなことが気にかかる。
この紙面に名前の出ている方々は、卒業して何年たっても何十年たっても、母校を思う
気持ちを持っているから賛助金を納めているのであろう。
そう勝手に推測すると、つい嬉しくなって「やぁ、お久しぶり!」その人たちに声を
かけてみたくなる。
四 五日ためらっていたが、結局は自分の気持ちを抑えることはできなかった。
同じ「農業科」で机を並べたN君にはがきを書くことにした。はがきを選んだのは、
何十年振りに、いきなり電話して相手を戸惑わせてもなんだし、耳が遠くなっているか
も‥‥私なりの心配りのつもりである。
二三日してN君から電話がかかってきた。声は年相応に老いているが、アクセントは
昔のままだ。
田や畑仕事の若い者に手を貸してやろうと思うと、車が必要でなぁ‥‥(本当は免許
証を返納したいのやけど)」その一言を聞けば、N君の高校卒業して農業一筋の来し方
が、おおよそ想像された。
電話しようか、やめておこうか――迷った挙句、意を決してスマホでダイアルしたの
はE子にである。電話番号は、数年前発行された同窓会名簿に載っているのを知ってい
た。
ダンナが出るだろうか、ふと不安がよぎったが「もしもし‥‥」受話器の声は、まぎ
れもなくE子であった。こちらの姓を名乗ると「ああ、I君」と私の名を呼んで「卒業
以来じゃぁない」と、”たくましい”声が返ってきた。
彼女の声、昔とちっとも変っていないや、私にはそう聞こえた。
E子は話してくれた。二人の子供は独立して無事やっている。自分は今趣味に生きが
いを見つけて毎日楽しんでいる等々――。旦那はどうしているのか、私は聞かなかった
し彼女も話さなかった。
在学時分、お互い淡い恋心を覚えた頃があったかも知れないが、特別親しい間柄でも
なかったかな、と今も自分には言い聞かせている。
「I君が、K子さんと結婚するなんて、思いもしなかった。びっくりしたわ、風の便
りを耳にした時は‥‥」とE子は小さく笑った。
私が「先が短くなったね。顔を見ておきたい気もするが‥‥」とつぶやいたら、E子
は即座に「元気いっぱいだった高校時代のお互いの姿を思い出して、懐かしんでいよう
ね」笑ってこたえてくれた。
そうやね‥‥、あの頃のままがいいね‥‥。
電話してみて良かった。