ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

生かされてます‥‥

 月半ばから、何かとせからしい――老体には、気疲れを覚える日が続いた。

 

 総合病院で私の抜歯。次いで妻が健康診査で血圧が高すぎる、心臓病が懸念される、と内科からの紹介でハートセンターへ急ぎ回され、心臓エコーやCT検査など丸一日不安な時間を過ごしたのである。

 

 

 まず抜歯。左下奥歯の具合が悪く、数年も前から最寄りの歯科へかかっているが、良くなるどころか益々虫食いが進んでいる感じだ。

 朝起きると、口中に苦い液がしみ出している。

 

 

 私は心臓を患い、血液の凝固を防ぐバイアスピリン錠を服用しているので、歯科医は抜歯をためらってようである。

 

 そうこうしているうちに、今度は左上奥歯2本がぐらぐらになって、食べ物が満足に噛めない状態に陥った。

 

 歯科の先生も、やっと「日赤か市民病院で抜歯して来てもらおうか」と踏ん切りをつけられたか、赤十字病院に予約を入れてくださった。

 

 指定されたのは翌日朝一番。先生に書いてもらった紹介状を持って、翌朝車を走らせた。

 

 赤十字病院の歯科口腔外科。問診の後、放射線科でレントゲン写真を撮った。

 

 「一番早いオペは、明日でも出来るけど‥‥」とドクター。

 「はい、結構です。明日お願いします、先生」

 「じゃ、明日午後1時、外来へお越しください」

 

 翌日午後1時前に歯科口腔外科の受付を通ると、すぐ主治医に呼ばれた。

 「念のため血液検査をします。梅毒やHIVの感染を予防するための検査で、患者本人の同意を必要とします」

 すぐ採血に回る。

 

 先生に案内されて3階のオペ室へ。

 手術着に着かえさせられ、手術台へ上る。

 本格的なオペの気配。緊張する。

 

「 30分ぐらいで終わります。力を抜いて、気を楽に‥‥」と先生。

 強いライトを当てられる前に、そっと周りに目をやると医師2人、看護師3人の姿を認めた。

 

 手順や麻酔薬の使用量などいちいち声に出して確認しながら、抜歯は予定通り無事終わった。

 

 

 私の2本の奥歯を抜くために、多くの医師、看護師さんや技師の方の手を煩わせたのである。

 

 心から感謝せずにはおれない、ありがたい気持ちである。

 

 今の世の仕組みでは普通のことかも知れないが――。

 

 

 「人は、一人では生きて行けない。みんなに生かされているのだ」今さらながら、人の世に思うのであった。