ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

ご利益を……

 50歳前後と思われる男性が、土曜か日曜日の朝一人お参りされる。
 数ヶ月前、社頭で初めてお見かけしたころは軽く会釈を交わすぐらいであったが、近ごろでは私の姿を見ると、お神札授与所の窓口まで歩み寄ってきては、いろいろ話しかけてこられるようになった。
 「毎日お参りして、願いごとすれば、神様は願いをかなえてくれるでしょうか」と、訴えるように尋ねられる。
先週もその前も、そして今週も同じことを聞かれた。
 「それは、いつかお聞き入れくださるでしょう。そう信じてお参りすることでしょうね」と私は答えた。
 その方のお話では、十年ほど前に突然奥様に家を出て行かれ、寂しい一人暮らしを続けているとのこと。
 「家を飛び出して行った家内も、その原因が私との不仲ではなかったはずだから、いまごろは冷静になってきっと家に帰りたがっていることだろうと私は想像してます。帰ってきて欲しい」と打ち明けられる。
 「奥様もそのように望んでおられるのなら、神様はきっとあなたのもとへ帰る何らかきっかけをお示しくださるかも……」私には、とりあえずそう慰めるしか思いつかなかった。

 この男性のように深刻な方もいらっしゃれば、中には「神社へ日参すれば、必ず願いごとをかなえてもらえるか……」と半ば暇つぶしに聞いてくる人もある。これは神職に質問するというより、こちらを試してみる気持ちが働いていると思われるふしがうかがえる。

いずれにせよ、こういった問いには私なりに丁寧に答えるようにしている。