ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

梅も桜も、もう少し先のようです

 夕方5時前、ジャンパーを引っかけると、思い切って寒風の境内に立った。
 700メートルほどの長い東参道を行くと梅林。つぼみは少しふくらんだ程度。桜はまだずっと先のようだ。あたりをちょっと見回して異状なしを見届けると、急いできびすを返す。
 参道沿いに高さ3メートルほどのサザンカの木。こぼれるほど無数に咲いていた淡紅色の花も散り果て、すっかり落ちぶれた一輪が小枝にしがみついて寒風に揺れていた。
 赤い花をつける大木もあるが、私は背丈30センチぐらい低木のサザンカが好きだ。師走の夕暮れなど、薄闇の中に花のそこだけ白くぼんやり浮かんでいる風情は、何だか甘酸っぱく切ない気分にさせられる。
 高校3年秋の終わり、学校近くの丘に登って語りあったあの人。暮れなずむ空を見つめて、過ぎ行く時をうらんだ彼の人の白い顔を重ねあわせ切ない。
 青春は、遠い遠い思い出の彼方である。