ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

埋め草の軽い気持ちが……「八方除け」

 神具製造会社のセールスと雑談中「テレビ番組か雑誌の影響でしょうか、近ごろ若い女性の間で「八方除け」のかわいいお守袋に人気があるんですよ」と彼が何気なくしゃべった。
 「そんなこともあるでしょうね。今の世の中、何か流行るかわからんから」と私も何となくうなづいて、その話はそれで終わった。
 数日後、年5回発行している社報の6月号編集に取りかかった。少し空白ができたので、何で埋めようか。締め切りぎりぎり。ふと浮かんだのが先日の八方除けの話題。軽い気持ちでキーをたたいた。
 氏子総代の手で社報が配られ、氏子宅に行き渡ったころ社務所に問い合わせの電話が来るようになった。
「自分の生まれ年はことし八方ふさがりだと書かれているが、神社でお祓いを受けなきゃいかんのか」「八方除けお守りは授与所で受けられるのか」等々。思わぬ反響につい戸惑う。
 過去にも経験がある。軽いタッチで書いた埋め草の短文が意外と読まれ、ある時は重宝がられ、ある時は非難めいた意見を耳にした。昔、駆け出し記者のころ体験済みのはずだったのに。
 当神社の宮司になってやがて20年。「八方除け」祈祷など申し込まれたこと一度もない。これまで周りで話題になったこともなかったのに。こりゃ参ったわい。
 でも、社報のその記事、よく読んでみてよ。八方除け祈祷を受けなさいと勧めてもいないし、八方除けお守りを当神社で売っている(授与している)とも書いてない。八方ふさがり・八方除けのこと余り気にしないようにと「方違え」のやり方をつけ加えたり、その記事軽くても、私としてはちゃんと手抜かりなく結んであるつもりだが。