ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

ヘンな一日

社務所の事務も走り始めた10時過ぎ、電話。受話器からの声は中年女性と推定。
「つかぬことお尋ねしますが、神社に内職ありませんか」
「あいにく……」
「座っていてできるような手仕事はないものでしょうかね」
「さあ―。申しわけありませんな」何だかこっちが恐縮したような格好で電話を切る。
続いて、A地区の氏子だと名乗る奥さんから電話。
「神社総代さんが氏子費を集めに来てくれたんですが、私たちは共働きで夫婦とも帰宅が夜おそくなります。せっかくの日曜日、朝早くからご近所に響く大声で起され、まるでサラ金の取立てみたいな騒々しさ。全く迷惑です」と、えらいけんまく。
「それは相すみません。A総代は耳が遠いのでふだんからあんな大声なんで、まことに不愉快な思いをおかけさせてしまったようで、何とも…」わびるばかり。
A総代は年配だが健康で律儀な働き者。朝が早い。平日は不在宅の車庫に、夫婦2台の車を確認した日曜朝をねらって訪ねたらしい。ただし年寄りの朝は早過ぎ、おまけに大声がいけなかったようだ。
「A総代は、いい人なんです。どうかお許しください」
「借金取立てをご近所に見られているようで、恥ずかしくて。それにまだ寝巻き姿で、とても応対に出られませんでした。氏子費は、今度の日曜社務所へ直接お持ちしますから、総代さんに自宅へ集金にこないように連絡願います」とのこと。
さて、このいきさつをA総代に何と伝えようか。Aさんに悪気はみじんもない。氏子費集金という自分の責任をきちんと果たしたい一心それだけ。ご老体で耳が遠く、日曜日ゆっくりしたい若い世帯へのちょっとした心遣いが足りなかっただけだと私は思う。
氏子奥さんとA総代、お互い気まずい思いすることなく、これからもいい関係が続くようA総代にどう説明しようか。
両手を後ろに組んで頭を置き、椅子の背もたれいっぱいに身をそらせて窓の空を見上げてほっとひと息、途端にまた電話。
「ちょっと教えてほしんですけど……」左の耳に若い女性の声。
どうやらヘンな日になりそうだ。(つづきは明日へ)