ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

死後の行く先

50歳代後半と思われる女性が社務所を訪ねて来られた。
用件は、独り住まいの父親が他界し、実家が空き家になってしまったので家財道具を始末、この際神棚も撤去したいがどのように処理すればよいのか教えてほしい、とのこと。近ごろは、こういった相談がちょこちょこある。
「神棚や古いお札・お守は神社の納め所へ持って来てください。お祓いをして、きれいな火でお焚き上げしますから」とお話し案内すると、その女性はちょっと安心したようにうなずき、父親は元気なころ氏子総代を務めたことや氏神さまを深く信心していたことなど思い出を話し出した。自分ら娘二人が嫁いだ後は、父は独り家を守っていた。時々様子を見に来ていたが、その日も何事もなく別れたのに、翌日訪ねた時にはふとんの中で息を引き取っていた。静かな最期のようだったという。
「お父さんは、自分がこの世でするべきことを精一杯果たされて、再び神の世界に帰られたのでしょう。お父さんは、これから祖神となって末永くあなた方を見守られ、健康と繁栄をお授けくださるでしょう」と励ました。
女性は、はらはらと落ちる涙をぬぐい「父は神さまになって、これからも私たちを見守り続けてくれるのですね」と念を押すようにうなずき帰って行かれた。