ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

デートの会話

たも網や虫かごを持ったジイジと孫が森へはいって行く。学校が夏休みになると、鎮守の森は毎日朝から元気な声が響いてにぎやか。4ヘクタールに上る当神社の土地山林はすべて国史跡に指定されているので、郷土研究や宿題調べで訪れる地元中学・高校生はもとより、卒論大学生の姿も毎年何人か見られる。その子らの応対は、この時期私のスケジュールに織り込み済みである。
高校生ペアも最盛期。近ごろは部活から直行するジャージ姿の中学生デートもちらほら。カップルは緑陰を求めて森へ森へ。下の田んぼを渡ってくる風はそれなり涼しかろうが、日中の森の中はむせ返る暑さだ。しかし、はたの者が熱中症を心配してやるのは、いらぬお節介ということになろう。
社務所から車で3分の自宅に帰って昼食、ひと息いれながら妻に
「俺たちデートの時何を語り合ったかおぼえているか」尋ねたら
「急に何を言い出すかと思ったら――そんな昔のことおぼえてないわよ」とつれない返事。
「そうかおぼえてないか。俺も全然記憶にない。デートした日の暑さ寒さの感覚も、肌に全く残っていない」
はるか高3のころ。校庭からほど近い山へ毎日デートした。一面潅木の小高い山頂に腰を下ろし、遠く伊○湾を望みながら1時間でも2時間でも飽きることなく何を熱くしゃべり合っていたのか。私も妻もおぼえていないのである。
「卒業間近のデートだったか、隣町の神社の森で忍び逢おうとして神職に見つり小言食らった上追い出されたことがあったっけ」思い出して、とも白髪の妻と大笑い。
「だから今、神社の森へやってくるカップルに俺は寛大なのさ」何てつぶやきながら午後の仕事に戻った。アブラゼミの鳴き声が木々いっぱい。夏真っ盛りです。