ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

あ、ちゃア……

立ちション?

自分の畑で育てた野菜や手づくりの漬け物をリヤカーに積み込み、町内を何十年も商いしている女性がいます。古希を過ぎたろうと思うが、達者です。
照る日は毎日、時刻も決まって午後3時、境内に姿を現します。白い手ぬぐい姉さんかぶり、前かがみに、小刻みに早足で玉砂利を踏む音、眼を上げなくとも彼女だとわかります。
拝殿前の鈴を振り、賽銭は10円玉の音一つ、チャリン。次に一目散、彼女は社務所の窓口を横切って、境外トイレへ。ここ何年来の行動パターンです。どうやら神社をトイレ休憩場所に利用しているようです。でも、ちゃんと賽銭を投げ入れ、神前にお参りをした後だから別に気にとめることではない。
ところがそのトイレ、先日から改良工事中で使用禁止。工事に先立って1週間ほど前からバリケードを張り「工事中、6月20日まで使用禁止」の予告看板まで立てた。毎日利用している彼女は看板を見て承知のはず。なのに工事が始まっても、定刻になるとトイレを利用しにやってきた。習慣になっているのだろう。彼女にとっては折りよく、というかその時刻、辺りに作業員の姿がなかった。
さてどうするのだろうか、窓越しに彼女の様子を見ていると、工事現場をのぞいた後さっと身をひる返すやトイレ裏の木立の中へ。「あッちゃッ、やってくれるわ」思わず胸のうちで叫んだ。何と不敬な。せっかく、さっき神前に手を合わせたばかりなのに……。社務所のトイレ貸してと言えば遠慮なく使ってもらったのに。
明日からは、工事が終わるまで来ないだろう、と思いきや、何のことはない翌日にはちゃんと定刻きっかりおいでなさった。きょうも立ちションやったら一言言ってやろう。構えていたけど、一度は彼女トイレをのぞきに行ったものの、さすがにきびすを返してすごすご帰って行った。神社から彼女宅までの道のり1キロはあろう。おしっこ、どこまでこらえられるのだろうか。