ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

言いわけ

決算だ、監査だ、新年度だ……

何てぼやいているうちに季節はすっかり移り変わり、境内は若みどりがいっぱい。ツツジも満開。
毎年この時期、明けても暮れても仕事の山崩し。連休など夢の夢。代表役員、宮司とは名ばかり、一人神職の神社の実情です。
あれ、また愚痴ってしまった。言うまい愚痴・言いわけは、これ以上。

行かなかった現地

遊軍記者のころ、A支局管内で若妻毒殺未遂事件が発生、私の運転する車に先輩B記者を乗せ支局応援に走った。勢い込んだ出だしだったが、事件は次第に尻つぼみ。家庭事情が絡んでいて、何だかうやむやのうちに1か月ほど経過した。
事件1か月後の現地の様子を取材して来いとの命令で、またも先輩B記者を乗せ1時間ばかりの道のりをたどった。この取材、先輩も私も気乗りしなかった。うわさ話のうるさい田舎町、20代半ばの人妻の心情やこれからの人生を察すると、そっとしておいてあげたい心境だった。
とりあえず地元警察の捜査課長を訪ね、状況を聞いた。幸い顔見知りだったので、何だかんだしゃべっているうちにある程度捜査状況を漏らしてくれた。このまま幕切れにしたい口ぶりだった。
先輩と私、どちらからともなく「今さら現場行くの、省略しようや」。

「手を抜いたな!」

喫茶店で時間をつぶし、夕方暗くなって社に戻ると、現地を見てきたような原稿を書きなぐってデスクの前にそっと差し出した。
ほどなく「ワンちゃん、ちょっと来い!」デスクの雷が落ちた。
「君ら、本当は現地へ行かなかったろう。手を抜きよったな。ばか者」声で怒鳴って、口元は笑っている。B記者と私はこそこそ編集局を逃げ出した。
後日。「ワンちゃん、見てきたようなうそを書いたら必ずばれる。現地へ行ったか行かなかったか原稿読んだらすぐわかる。あの日の取材は、初めから期待してなかった。正直に報告すればそれで済んだ。俺は、Bと君を息抜きさせたかったから、わざと本社から遠ざけたのだよ」そうだったのか。デスクの温情を察することができず、うそをついて申し訳なかった。
この恥ずべき体験を肝に銘じ、戒めと今も忘れない。一方この体験、人さまの言いわけやうそを見きわめるのに役立ってますよ。