ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

あとひと口、もうひと口

 所用で隣市へ40分ほど車を走らせたが、相手の急な都合で2時間近く待たなければならなくなった。

 

 午後1時を過ぎていたので、どこかで腹ごしらえをすることに。

 

 久しぶりに、みそラーメンと餃子でも食するか――と、カーナビで最寄りの中華料理店を検索するが、あいにく定休日の店が多く、やっと住宅街に夫婦で営業する店が開いていたので立ち寄ってみた。

 

 「野菜たっぷりのみそラーメン」とお品書きにあったので、それと焼き餃子を注文した。

 

 ラーメン・餃子は、新聞社時代の二十歳半ばから、手軽な昼食として、つい度々、出前してもらったものである。

 

 運ばれてきたキャベツなど野菜を山に盛り上げたみそラーメンを見て、思わず「うへぇ、これはこれは‥‥」と驚くと、若い奥さんは「餃子は食べ切れなかったらパックでお持ち帰りください」と親切に声をかけてくれた。

 

 餃子一つを口に入れたが、ジューシーで「うまい!」。しかし、どう見ても、具一杯詰まった餃子一皿6個は食べ切れそうもない。

 

 最近とみに食が細くなってきているからである。

 

 せっかく作ってもらったラーメン。食べ残すのはもったいないし、失礼でもある。

 

 ともかくラーメンをすすり込む。キャベツはばりばりかみ砕く。いい味加減のスープだったが、これは思い切って飲み残す。

 

 「あと、ひと口」「あと、ひと口」と頑張って、ラーメンはどうやらほぼ完食した。

 

 ころ合いを見て奥さんが「残された餃子はパックへお入れしましょう」と、余分にタレの小瓶までつけ加えて、気軽に包んでくれた。

 

 若いご夫婦が営む、気配りのうれしい、アットホームな小さな中華料理店であった。

 

 

 それにしても、食べられなくなってしまったものである。

 

 若いころには餃子をもう一皿プラスして食べたいと思ったほどだったのに――。

 

 近ごろでは、外食の機会もめっきり減った。一人前が食べ切れないから、つい出かけるのもおっくうになるのである。

 

 かと言って、食に関心をなくしたのではない。食べたことのない、美味しそうな写真を見ると「旨いものを、ちょっとだけ味わってみたい」と興味津々。

 

 新聞の折り込みチラシには目を通すし、インターネットのブログでも腕自慢の料理記事は一読する。

 

 

 ――気に入った料理は、食べ終わってから「もうひと口、余分に食べたかったになあ~」と、ちょっと物足りなさを感じた、若いあの頃の食欲を、今は懐かしくさえ思うのである。