ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

彼岸のお墓参り

 明け方、尿意を我慢してうつらうつらしていたら、いやーな夢を見た。

 

 

 雨上がりのぬかるみを、昔ながらの荷車が近づいてくる。

 見ると、愛犬のチワワが体に荷綱をかけられ、泥まみれになりながら、懸命に荷車を引っ張っている。

 

 「マロン、お前が、なぜ?」と呼びかけたが、振り向きもしないで行ってしまった――。

 

 何とも痛ましい、やり切れない思いで目が覚めた。

 

 

 どうして、こんな夢を見たのだろう。老いぼれたせいだろうか。

 

 午前中はいやーな気分を引きずっていたが、そのうちにぬかるみの愛犬の姿が、在りし日の父が泥まみれになりながら田んぼの代掻きに励む姿に見えてきた。

 

 

 父母は、朝早くから夜遅くまで野良仕事に勤しみ、老いた祖父母を労わり養い、私ら男二人女二人の4人の子供を育んでくれた。

 あの頃の農家の仕事は、男も女も重労働の日々であった。

 

 私が就職して2年後、父は胃がんを患い44歳で亡くなった。

 

 農業を継ぐはずであった長男の私が勤めに出てしまったものだから、弟が私に代わって農業を継ぎ、母を助けて、幼い2人の妹を育て上げてくれた。

 

 母は長年の苦労の蓄積から病を得たが、何とか克服し90歳まで生き抜いてくれた。

 

 父も母も、老後の余生など楽しむ暇もなく逝ってしまったのであった。

 

 

 今私は、ささやかながら穏やかに余生を送らせてもらっている。

 傍ら、両親に親孝行できず、まことに申し訳ない気持ちを持ち続けているのである。

 

 

 秋の彼岸の23日午後、妻を誘い、生家の父母やご先祖の墓参りに出かけた。

 

 今さら詫びても仕方ないが、「おやじさま、おふくろさま、親孝行できずにごめん」両手を合わせ、改めて心静かに冥福を祈った。