ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

しち・ご・さん

 日曜の12日、19日とその前後の数日「七五三」の手伝いで氏神さまの社務所へ出かけた。

 

 小さなお宮のことで、常勤は神職宮司)一人。

 祈祷や行事が重なり、スケジュール一杯になると、来客につい不行き届きな応対になってしまう場合も出てこよう。

 そこで、退任して4年余もたつ私に応援のお呼びがかかる。

 

 さて、この頃の七五三参りの様子はどうだろうか?――と、ちょっと興味を持ちながら、白衣・紫の袴(はかま)に着替えて受付に立つ。

 

 その日午前10時の祈祷予約は3組。2組は5分前までには控室にはいられたが、あと1組は15分過ぎてもお見えになる気配がない。

 「時間通り来られたご家族を、これ以上お待たせしてはいけない」と宮司は2組を案内して拝殿へ向かった。

 

 間もなく太鼓の音が聞こえ、お祓い・祝詞奏上へと式は進むはずだ。

 その辺りになって「10時予約の〇〇です。」5歳と3歳の男の子を連れ立った親子が玄関に着かれた。

 「お待ちしていたのですが・・・今ご祈祷中なので、あと20分ほどお待ち願います。」と控室へ案内する。

 ものの5分もたたないうちに控室でドタバタ。兄弟がソファでジャンプしたり部屋の中を走り回っている。父親は煙草をふかし、母親はスマホをいじってそ知らぬふり。

 「もうちょっと待ってね。静かに我慢できた子には、神さまからごほうびがいただけるからね。」なだめて、頭を撫でてやる・・・。

 

 先の2組が祈祷終えて御殿を下がってきた。待ちくたびれていた親子はすぐ宮司に導かれて拝殿へ、ばたばた足音立てながらはいって行く。

 

「やれやれ」ホッとする間もなく、もう次の11時予約の親子が訪れるはずだ。

 

 お昼、12時半過ぎ、「今のうちに腹ごしらえしておこう。」と宮司がカップラーメンに湯を注ぐ。 

 ふと窓の外に目をやると、参道には次の午後1時祈祷予約済みの親子の姿が・・・。

 

 もう二昔も前になろうか、七五三当日の11月15日は、休日だろうが平日だろうが朝の8時を過ぎるころから、身なりを整えた親子連れが続々と鳥居をくぐり、祈祷開始時刻には控室も拝殿も満員になるほどであった。

 

 年々様変わりして、15日が平日だと拝殿はがらがら。親が勤めを休めないから、というのが大方の理由。師走にはいってから七五三参りをされる親子もある。

 祈祷の予約時刻を過ぎて到着しても気にしない。祈祷中にふざけて騒ぎ出しても、子供を叱らない親・・・

 

 「何でも自分らの思い通りに・・・」「他の人の気持ちなど全く気にしない」果ては、わがままが通らないと相手を誹謗する・・・

 

 私どもの年代から見れば「いやはや・・・」と嘆きたいところ。

 

 祭祀(祭事)に厳しい私の後任宮司も「七五三参りの本当の意味を忘れて、形だけ。マナーどころか年々”わがまま”な参拝者がふえていくようですね。」と私に漏らす。

 そして、きびすを返すと、祈祷を終えて今下がってきたばかりの拝殿へ「お待たせしてごめんね」愛想よく小さなお客さまたちを案内して行くのである。

 

 人の世の移り変わりを嘆いてみても、大方それは参拝者を受け入れる神社側のぼやき――泣き言であろう。努力不足だと反省したい。スタッフは宮司一人だけという小さなお宮なりに「どうしたらお客に満足して帰ってもらえるだろうか」考え工夫しなければならない。この仕事は、これから益々大変になる。

 

 前宮司である私の在任中の努力不足も否めない。

 

 参拝したり祈祷を受ける人たちからすれば、神社が受付時間を公表しているのだから、平日だろうと何時だろうと、自分たちの都合のよい時にお参りしたら良いのである。

 

 そんなことあれこれ、改めて考えさせられた”しち・ご・さん”であった。