ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

ホトケの徳さん

親類や職場の元同僚はT・Hさんのことを「ホトケの徳さん」と呼んでいる。人柄は温厚、仕事は黙ってこつこつ。手先は実に器用。めったに不平不満をもらさない。
定年後もしばらくは資格を生かしてボイラーマンを務めていた。そのころからA地区の当社氏子総代に選ばれていたようで、宮司に就任した私もすぐに徳さんの篤実な人柄を見込み責任役員をお願いした。
徳さんは毎日のように社務所に顔を出し、境内の掃除から建物や水道、電気のちょっとした修理まで気づいたことを黙々とやってくれた。私は本当に助かった。奥さんは奥さんで自宅近くのお寺の奉仕に精を出し、まことに徳さん夫婦には頭が下がるばかりであった。
ところが身内が病気で徳さん宅に転がり込んできてから不幸が続くことになった。夫婦は懸命に看病。病院を転々させられるようになると、徳さん夫婦は交代で遠くの病院まで看病に通った。数年後に病人は亡くなり「これで徳さん夫婦も楽になるなあ」と私どもうわさしている間もなく、徳さん本人が持病の糖尿を悪化させ入退院を繰り返す日々に陥った。続いて奥さんもダウン。さらに息子の離婚が重なる。
慰めようがなかった。こんな心優しい夫婦に、神・仏は何とひどい試練を与えるのか。神主である私が、徳さん夫婦のお役に全く立たない。「徳さん、済まぬ」おのれの力のなさを嘆くばかりである。