ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)

カサブランカ一輪

妻が、カサブランカの花を寝室に飾った。一輪でも八畳の間いっぱい、梅雨のうっとうしさを忘れる芳香が漂う。
田舎育ちの私は、子供のころからユリが好きだ。近ごろは山の斜面を這ってヤマユリを探さなくても、筋向いの花屋でカサブランカがすぐ手にはいる。
懐メロ番組で耳にした「北上夜曲」が気に入って<においやさしい白ユリの……>と、口ずさんだころもあったっけ。白ユリのイメージを遠き彼女に重ねてさ迷った雨の宵、思い出すのも恥ずかしい遥か青春のアルバムか――。
我に返って目を上げると、事務室の窓は雨でけぶったまま。境内には参拝者の影もない。ベンチ越しに青・赤・紫鮮やかなアジサイの花が溢れるばかり眺められる。「神社にアジサイはふさわしくない」と知ったかぶりして批判した人がいたが、殺風景なベンチ脇にアジサイでも咲かせてみたら、と自分で苗木を買ってきて手植えしてくれた奇特なお方、そのお気持ちは何ともうれしい。
人の喜ぶ顔を見たい。そんな心がけの方は、きっと自分も明るく楽しい毎日でしょう。美しいもの、明るいこと大好きです。人の世のルールに反するもの大嫌いです。