ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

Nさんの祈り

猛暑の昼下がり、Nさんが新車のお祓いに。近ごろ自損事故ばかり起こすのでお祓いしてすっきりさせて、とひと月ほど前にも清め祓をしたばかり。
Nさんが重ねて話されるには、ずっと以前から身の回りに良くない出来事ばかり。ついには体調不良に陥り、夜は眠れず、朝起きが辛い。眠りまなこの通勤途上ガードレールに車をぶつけること二度三度。気分を一新しようと新車に買い換えたのだという。
世間のうわさでは、Nさん自営の下請け工場が行き詰まる前後に長男を自殺で失い、妻に逃げられた後は何を手がけても軌道に乗らず、今も仕事を転々としていると耳にしたことがある。
失意の底をさ迷い続けるNさんの気持ちを、少しでもよみがえらせ、力づけてあげるにはどうしたらいいのか。神職として悩むところです。とにかく祭式に従って祈祷を済ませて、いつものように願主Nさんと向き合った。私は
「Nさんの新車に氏神さまの御霊をいただいて、安全快適に走行できるようご加護をお願いしました。でも、車を運転するのはあなたです。まずは医者の指導に従って体調を整えてください。その上で車のハンドルをとる時はうんと気を引き締め、車間距離を十分取るなど安全運転にお心がけください。日ごろ万全を尽くす人には、きっと神さまもお力をくださいます…」といったお話をしました。私の祈りは、言うまでもなくNさん自身の切実な祈りです。Nさんに心穏やかな日々を。