ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

森の中で

雨を吸った森の緑が深く重く感じられます。
雨の合い間に、古いお札お守を焚き上げました。正月から半年の間に納められた数十体で、お祓いをして炉に火を入れました。しばらくはもくもく立ち上る白い煙。その時、どさッ。目の前を一瞬黒い影がよぎって足元に落ちました。げッ、ヘビだ。ヘビも煙にむせたのか。でもゆうゆうと木立の中へ消え去りました。やれやれ。
その夕方。見回りと散歩を兼ねて参道に出てみた。雲がどんより垂れ込めたままなので、まだ5時過ぎなのに薄暗い。辺りの空気も湿気を含んで、ねっとり首筋にまとわりつく感じ。いやな予感。案の定、参道の幅いっぱいに横たわる太い影。シマヘビだろうか。足音を聞いても動かない。こちらも気味悪いから、ヘビの近くにころころっと小石を投げてみた。やっと気がついたかのようにぞろりぞろりと草の中へもぐりこんで行きました。
梅雨どき、ヘビやムカデの活動は活発です。ヘビやトカゲはいやらしいだけですが、ムカデには油断できませんね。長年こうして森の中の職場で四季を送っていると、虫どもも自然の仲間の一員だと思われてきます。
4万平方メートルの大きな森の中に立つ神殿と社務所。静かな環境、普段たった一人の職場。いつも小鳥の声を聞きながら。心が和みます。腹を立てなくなりました。以前から向拝所(こうはいしょ)に掲げられている「ここは心のふるさとです。うんぬん……」の木札。本当の意味が実感できるようになりました。
人生の峠を越えてから縁あって氏神さん勤めに。それもこれも神さまの思し召し、人さまのお蔭だ、と素直に思えるこのごろです。