ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

浮遊霊がうようよ

宮司に着任のころ、社務所の留守番おばあさんが話しかけてきました。「夕暮れの神社周りは、浮遊霊がうようよいるんですって。怖くないですか」若い新任神主を驚かすつもりなのか、私の顔色をうかがってニヤニヤしている。私も「そんな話聞き初めです。浮遊霊ってどんなものなんですか。教えてよ、会ってみたい」と笑って返した。このおばあさん、神社の仕事をしながら、家に帰ると怪しげな宗教に凝っているらしいと耳にしていたので、ちょっと意地悪く逆襲してみたのです。おばあさんも浮遊霊の実体は知らないのか答えがなく、その後も聞かずじまいで退職されました。
夜の墓場はにぎやかだ、とは聞いたことがある。ご先祖の霊たちがしゃべり合っているからだという。それに引きかえ夜の神社は文字どおり森閑としていて、いかにも神が鎮まっている気配。私など修行不足でお恥ずかしい、いまだ神霊に近づけたと感じたことがありません。
それはさておき、私どもの世代は小さいころから神社やお寺を生活の一部として、違和感なく接して育ってきました。大らかだったのでしょうか。言い換えれば、宗教に対する適応力も養いながら大人になった。神を拝めば、寺にも参るし、教会の前では立ちどまって頭を下げる。何もおかしいとは思いません。でも、それだけに得体の知れないものには「ちょっと待てよ」と抵抗力が働きます。
子供たちが、神社やお寺の境内で元気に遊び回る光景がよみがえってほしいものです。