ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

山のかなたに…

アフターファイブ、映画を見た後はネオン通りをそぞろ歩くのが楽しみでした。淡い恋でも生まれそうな春の宵、ちょっと何か起こってもよさそうな、そんな期待に胸ときめかせながら…。
でも、やっぱりいつも何も起きませんでした。夜の早い田舎町、しょんぼり自転車を踏んで家路をたどるのが日課みたいな二十半ばでした。
新聞社に転職するとがらり生活が不規則に、好きな映画とも無沙汰。それでも上がりの早い夜など、きっと何かありそうな予感がして雑踏に飛び出してさまよってみるのでした。何も起こりませんでした。結局今夜も同僚と誘い誘われて屋台の安酒、そんな一時期もありました。
今、人生のまとめを急がねばならない齢に達したというのに、未だに時折あのころの気持ちを引きずりながらさまよいそうな自分に気づきます。未練がましく、いまさら何を探しているのだ、青春のかけらでも追っているのか。どこまで行っても何もなかったじゃないか。
でも、やっぱり明日の夜にはきっと何かに出会えそうな気がするのです。それとも、あすあの山波の向こうに行けば、何かつかめるに違いないのです…。