ノスタルジー

「ワンちゃん宮司の旅の宮余話」(改題)。「ワンちゃん」は、昔、駆出し記者のころ先輩がつけてくれた。このあだ名、今では遥か青春時代のよすがでしょうか。

招かざる訪問者<その一>

 私ども小さな田舎の氏神さまでも、それなりに毎日訪問客があります。
 善男善女ばかりではありません。まことに迷惑千万な来客?もあります。まずは賽銭ドロ。顔ぶれは大体決まっていて、毎日あるいは一週間おきに賽銭箱と対面しにやってきます。本殿の賽銭箱は大きくて頑丈に作られているので、ちょっとやそっとでは破れません。付属の神宝殿などの賽銭箱は、少々頑張ればこじ開けられます。鍵を壊してみても収穫は、1円玉か5円玉が五、六枚。ドロ敵自身、それがわかっちゃいるけど、やっぱりいっぺん開けて箱の中をのぞきたいのです。「一種のビョウキなんだわね」とお巡りさんも心得顔。
 毎月おついたち(朔日)は、朝からたくさんのお参りがあって、賽銭も多い。ドロ敵は胸を躍らせ、待ち構えているに違いない。そんなこと、こちらだって先刻ご承知。昼になると、午前中の賽銭を集め金庫に納めてから食事に出るのがこっちのパターン。ある時、忙しさにかまけて賽銭の回収を後回しに昼飯に走った。案の定わずかな留守の間にごっそりやられてしまった。「油断もスキもありゃしない」じだんだ踏んで悔しがってみたって後の祭りとはこのこと。
 大げさな言い方ですが、こんなありさまで賽銭ドロとは年中知恵比べです。

 時には、真昼間から酔っぱらいの来訪があります。「オイ神主、酒やめられる祈祷やってくれや」なんて玄関に居座り、長々とくだを巻く。張り倒してやりたいけど、宮司と名のつく手前こぶしを振り上げるわけにもいきません。ここはガマン、我慢。
 やがて少し酔いが醒めてきたころあいを見計らって「断酒の祈祷してあげるから、しらふの時に出直しておいでよ」と体よく追い出します。これでまたしばらくはこの酔っ払いとは縁が切れます。